本学デジタル資料『みぞち物語』

 

『みぞち物語』は、平成八年度私立大学研究設備整備費等補助金によって古書店から購入した「中古・中世物語資料」の一つとして、本学図書館の所蔵になりました。

江戸前期ないし中期頃までの書写になる、いわゆる奈良絵本です。
また、『国書総目録』などに記載されず、従来知られていない作品です。
なお、佐伯真一先生による「翻刻『みぞち物語』」(『青山語文』29号、1999年3月)に、簡単な書誌解題と翻刻が掲載されています。

 

『みぞち物語』解説

『みぞち物語』は、平成八年度私立大学研究設備整備費等補助金によって古書店から購入した「中古・中世物語資料」の一つとして、本学図書館の所蔵に帰したものである。江戸前期ないし中期頃までの書写になる、いわゆる奈良絵本。『国書総目録』などに記載されず、従来知られていない作品である。なお、佐伯真一「翻刻『みぞち物語』」(『青山語文』29号、1999年3月)に、簡単な書誌解題と翻刻を示した。


【書誌】写本上下二帖。列帖(綴葉)装の両面書写で、上冊19丁、下冊17丁、遊紙なし。料紙は鳥の子紙。縦24・0、横17・4センチ。上下冊とも、各々5面ずつの絵あり。奥書・識語の類は無い。


【書名】上下冊の題簽に「みそち物語上(下)」とあり、新しく補ったと見られる桐箱には「みそぢ物語」とあるが、本文末尾には「それより此所をは、みそちの郷とそなつけける。みそちとは、水落子と、かやうにかき侍る也」とあり、これによれば題簽に言う「みそち」は、「水落」を意味し、「みぞち」と読むべきものと見られる。物語の舞台は、冒頭に越前と設定されており、「水落」は福井県鯖江市内の地名(現水落町)であろう。


【内容】越前の長者・福内の左衛門が気比大明神への申し子により娘を授かる。娘が17歳になった時、奥州へ下る途次に立ち寄った都人・竹林宮内に恋をする。宮内は、翌春、都への帰途に立ち寄り、娘が宮内の鬢を洗った水(鬢水)を飲むと、契りを結ばぬままに懐妊し、男子を生む。男子が三歳になった時、宮内が再び訪れた。人々が揃った座敷で、親と思う人に抱かれよと言われた男子は、迷わず宮内に進み寄り、嬉しそうに膝に抱かれたが、たちまち姿を消し、宮内の膝の上にはかつての鬢水が残った。娘は宮内と結婚し、それからこの地は「みぞちの郷」と呼ばれるようになった。 なお、本学に収蔵された時点では、上冊に乱丁があり、第二括(現装10~13丁)は、本来は第三括の中央(現装16丁と17丁の間)に綴じられるべきものである。本稿執筆時点では、現装の糸を切って綴じ直すに至っていないため、以下に掲げる翻刻では、乱丁に関わる部分について、本来あるべき丁数の下に、現装の丁数を「現10オ」のように示しておいたが、いずれ、綴じ直すべきものと思われる。


(青山学院大学文学部日本文学科助教授 佐伯真一)

 

『みぞち物語』凡例

本文を原本の表記に近い形で翻刻したが、読みやすさを考慮して、句読点を私意に加えた。

漢字は少なく、あまり問題はないが、一部を現在通行の字体に改めた。

濁点は加えていない。一部に存する濁点は原本にあるものである。

疑問のある箇所には傍線を引き、下に〈 〉を付けて、稿者の推測を示した。

改行については、挿絵のある箇所を除いて追い込み、原本の丁数のみ、その丁の冒頭に(1オ)、(1ウ)…として示した(乱丁については[解説-内容]を参照)。

『みぞち物語』上冊

列帖(綴葉)装の両面書写で、上冊19丁、遊紙なし。料紙は鳥の子紙。縦24・0、横17・4センチ。上下冊とも、各々5面ずつの絵あり。奥書・識語の類は無い。

『みぞち物語』下冊

列帖(綴葉)装の両面書写で、下冊17丁、遊紙なし。料紙は鳥の子紙。縦24・0、横17・4センチ。上下冊とも、各々5面ずつの絵あり。奥書・識語の類は無い。